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東京高等裁判所 昭和49年(行コ)5号 判決 1975年9月10日

東京都港区芝五丁目八番一号

第五号事件控訴人、第九号事件被控訴人(第一審被告)

本所税務署長事務承継者

芝税務署長

岡田繁雄

右指定代理人

武田正彦

門井章

木谷孟

佐伯秀之

関根正

室岡克忠

佐々木宏中

東京都港区港南五丁目三番二三号

第五号事件被控訴人、第九号事件控訴人(第一審原告)

松岡冷蔵株式会社

(旧江東冷蔵製氷株式会社)

右代表者代表取締役

松岡清次郎

右訴訟代理人弁護士

溝呂木商太郎

右当時者間の昭和四九年(行コ)第五号、第九号青色申告書提出承認取消処分等取消請求控訴事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

第一審原告の本件控訴を棄却する。

第一審被告の敗訴部分を取消す。

第一審原告の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。

事実

第一審被告代理人は、第五号事件につき、主文第二ないし第四項同旨の判決を求め(第一審被告は原判決主文第一ないし第四項に関する控訴を取下げた)、第九号事件につき控訴棄却の判決を求めた。

第一審原告代理人は第五号事件につき控訴棄却の判決を求め、第九号事件につき「原判決主文第五項を次のとおり変更する。第一審被告が第一審原告に対し昭和四四年六月四日付でした源泉徴収にかかる所得税につき昭和三九年六月分の給与所得の本税を六〇万四四二〇円、不納付加算税を六万〇四〇〇円とする納税告知及び賦課決定処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。」との判決を求めた。

当時者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

(証拠)

第一審被告代理人は、当審において乙第二九号証、第三〇号証の一、二、第三一ないし第三三号証、第三四号証の一、二、第三五、第三六号証を提出し、当審で提出された甲号各証の成立は原本の存在を含め全部認めると述べ、第一審原告代理人は甲第八号証の一ないし二六、第九号証の一ないし三、第一〇号証の一ないし四、第一一号証の一ないし四、第一二号証の一、二、第一三号証(第一二号証の一、二及び第一三号証はいずれも写)を提出し、乙第三〇号証の一、二、第三四号証の一、二の成立は認める、当審で提出されたその余の乙号各証の成立は不知と述べた。

理由

一、当裁判所は第一審原告の本訴請求は、失当としてこれを棄却すべきものと判断するものであつて、その理由は次のとおり付加するほかは、原判決の当該部分の理由と同一であるから、その説示を引用する(原判決五四枚目表一行目から同六八枚目裏四行目の「推定することができるが、」まで)。

(一)  原判決五八枚目表七行目の「である」の次に「右認定とていしよくする原本の存在及び成立に争いのない甲第一二号証の二は措信しない。」、同六〇枚目裏二行目の「各証拠」の次に「及び原本の存在ならびに成立に争いのない甲第一二号証の一」、同六一枚目裏五行目の「松岡清次郎の前記供述」の次に「原本の存在及び成立に争いのない甲第一三号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二九号証、第三六号証」、同末行の「乙第二四号証」の次に「前掲甲第一二号証の一」をそれぞれ加入する。

(二)  原判決六六枚目裏一〇行目と一一行目の間に「成立に争いのない甲第八号証の一ないし二六、第九号証の一ないし三、第一〇号証の一ないし四、第一一号証の一ないし四(一は乙第三四号証の二とその内容が同一であり、二は同号証の一とその内容が同一である)によれば、松岡茂は昭和三九年一二月中旬に総額一〇〇〇万円以上の株式を買付けたこと、同人の株式の配当収入は、昭和三八年度が八万円、同三九年度が七八万九一六六円、そして同四〇年度が一七四万七一二九円であるとして、右各年度の所得税確定申告をし、これに対応する所得税を納付したことが認められる。

しかし古川英郎の署名捺印部分については、成立に争いのない乙第二一号証によりその成立を認め、その余の部分については、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二二号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき同第三一号証、第三者の作成にかかり弁論の全趣旨によりその成立を認める同第三五号証によると、松岡清次郎は第一審原告を始め関連会社の名目上の役員の給料及び賞与を受領し、その代りに同人らのその分の税金を負担し、また他人名義を用いて株式を買付け、その配当金を受領し、その代りに名義人のその分の所得税を負担していたことが認められ、そらに成立に争いのない乙第三〇号証の一、二によると、松岡茂及びその妻満喜子が昭和三七年度の所得税確定申告をする際、同人らの名義の株式の配当収入を申告しなかつたため、所轄の横須賀税務署から更正処分を受けたとき、松岡清次郎から同人においてすでに同人所轄の芝税務署に申告ずみである旨の異議申立てがあつたこと、そこで横須賀税務署が芝税務署に右事実を照会したところ、同税務署所得課特別調査班において調査を行つた結果、松岡清次郎が右配当収入の実質的所有者であることが判明し、同税務署から同人に対し修正申告をするようしようようし処理した旨の回答があつたことが認められる。

右事実によると、松岡茂は前述のように多数の株式を買付け、また昭和三八年度ないし同四〇年度に多額の株式の配当収入があつた旨の確定申告をした上、それに対応する所得税を納付したことになつてはいるが、果してそのうちどれだけの株式が実質上同人が買付け、また現実に自ら所得したものかその点きわめて疑わしく、従つて松岡茂において、前述のように多数の株式を買付け、また多額の所得税確定申告をした事実があるからといつて、直ちに本件株式の売却益は第一審原告に帰属したとする原判決の認定を覆すことはできない。」を付加する。

(三)  原判決六八枚目裏四行目の「推定することができるが、」の次に「右利息が一万八五四六円であることは、弁論の全趣旨により第一審原告において明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。ところで本件株式の売却益一四九万二五〇五円は第一審原告に帰属するのであるから、これに対する右利息金も同原告に帰属するところ、元利金ともに払い戻されたが第一審原告の手中に戻されなかつたのであるから元利金ともに松岡清次郎において費消したものとみるべく、従つて本件株式の右売却益及びその利息合計一五一万一〇五一円は、第一審原告の所得に加算しこれを松岡清次郎に対する臨時的給与(賞与)として支給したとみられるものであり、しかもその時期は松岡茂名義の通知預金一一六九万六六三〇円が解約された昭和三九年六月であるとするのが相当である。

しかりとすれば、本件株式の右売却益及びその利息合計一五一万一〇五一円は昭和三九年六月松岡清次郎が第一審原告から支給された臨時的給与(賞与)であると認め、第一審被告において、第一審原告に対し源泉徴収にかかる所得税につき、昭和三九年六月分の給与所得の本税を六〇万四四二〇円不納付加算税を六万〇四〇〇円(税額については当事者間に争いがない)としてした納税告知及び賦課決定処分は適法であり、これを違法としてその取消を求める第一審原告の本訴請求は失当というのほかない。」を付加する。

二、よつて第一審原告の本件控訴を棄却し、右と異なる見解の下に、本訴請求を一部認容した原判決は不当であるから、第一審被告の本件控訴に基づき、民事訴訟法第三八六条により、第一審被告の敗訴部分を取消し、第一審原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき同法第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺一雄 裁判官 田畑常彦 裁判官 宍戸清七)

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